愛芸アシスト基金 ご寄付?ご支援のお願い
多様な
キャリアデザインの支援
事務部門学務部芸術情報?広報課 課長 山内 恭輔
美術学部デザイン?工芸科デザイン専攻 教授 春田 登紀雄
音楽学部音楽科作曲専攻作曲コース 准教授 安野 太郎
美術学部美術科彫刻専攻 教授 森北 伸
未来を語る
社会とつながる芸術大学として、本学では教育?研究成果の発信を積極的に進めています。
第四期中期計画では、学長直下に広報組織を設置し、ブランド力の向上を目指すことを指標の一つとして掲げました。
ここでは、「ブランドイメージの確立」をテーマに、今後を見据え必要な取り組みとは何か。広報戦略とはどうあるべきか。
広報委員を経験されている3名の先生ならではのご意見を伺います。
森に抱かれた素晴らしい環境こそ、
愛知芸大らしい魅力の源泉。
山内
今回は、「ブランドイメージの確立」をテーマに、「教育?研究?芸術活動の発信」「広報戦略」の視点から、それぞれの先生のご意見をお聞きしたいと思います。本学では、活動成果を社会へ発表する代表的なイベントとして、美術学部では卒業?修了制作展、音楽学部では卒業演奏会や定期演奏会などを行っています。また、両学部の教員?学生が参加するオペラ公演は、本学らしい取り組みの一つです。こうした機会は、大学の認知を広げることはもちろん、本学の魅力を知っていただくこと、学生のモチベーションにもつながり、たいへん重要な役割を担っていると考えています。

まずは、これまでの広報活動について伺います。私の印象に残っているのは、春田先生が大学案内を大胆に変更されたことです。どのような狙いがあったのでしょうか。
春田
私は、教員として着任した時、まず心を奪われたのが、この環境の素晴らしさです。緑豊かな森の中にあり吉村順三の建築文化が今も継承されています。当時、広報委員として受験生の声を聞いた時、「この環境が気に入りました」「ここだったら自分の創作活動が思い切りできそう」という言葉がありました。そこで、「森の中の芸術大学」をテーマに、大学の魅力を伝えていく方針を掲げました。まず、大学案内を刷新するにあたり、将来的に計画しているWebサイトのリニューアルも見据え、媒体を横断して展開できるデザインとすることを念頭に置きました。
山内
春田先生は大学案内の構成を変え、スリム化しながら、WEBサイトへ誘導していく手法を取られました。大学案内を手がけた際、大切にしたことは何でしょうか。
春田
Webデザインと大学案内の制作で大切にしたことの一つが、本学の色です。森をテーマとしてきたこれまでの媒体では、グリーンを基調とした表現が多く見られました。そこで改めて注目したのが、かつて「蘇芳(すおう)」と呼ばれていたエンジ色で、吉村順三の建築にも息づいている色です。だからこそ、このカラーを基調にしようと決めました。

もう一つのこだわりは、コンポジションです。吉村順三建築特有の空間構成を、Webや大学案内の中で再現しています。その意図は、私たちが日頃目にしているアトリエや工房から見える風景を、読む人にも体感してもらうことにありました。学外の方が普段目にする機会の少ない、吉村順三建築の内側から見た景色を体験してもらいたいと考えたのです。つまり、外から閲覧するWebや紙媒体でありながら、建築の「内にいる感覚」を感じられるようなブラウジング体験をデザインしています。 今では、このカラーとコンポジションが、本学の「ビジュアル?アイデンティティ」となっています。実際に、関係者の方々からは「愛知芸大らしさをすごく感じる」という声もいただき、とても嬉しく思いました。
SNS運用の仕組みづくりが課題。
限られたリソース、人材をいかに活用するか。
山内
春田先生の後任として広報委員長を引き継いだ安野先生は、どのような考えをお持ちですか。SNSを活用した情報発信では、先生ならではの独特のセンスを活かしているという印象があります。現在、広報に関わりながら感じていることはありますか。
安野
SNSは日々の更新が重要なメディアですが、大学として発信する以上、正確性や合意形成も欠かせません。その両立の難しさを、今実感しています。

学内には多様な立場の人がいて、それぞれが責任を持って役割を果たしています。その前提を維持しながら、情報の鮮度を落とさずに発信できるよう、スピードと慎重さを両立するSNS運用の仕組みづくりが課題だと感じています。
山内
安野先生は、オープンキャンパスにも工夫を凝らしたとお聞きしました。具体的にはどんな試みを行われましたか。
安野
ワンポイントレッスンを拡充しました。そして、来学者アンケートの内容にも一工夫を加えました。例えば、受験や志望動機といった定型的な質問だけでなく、「音楽をやっていてモヤモヤすることはありますか?」というような率直な実感を尋ねる項目を入れています。もちろん、回答は個人が特定されない形で集計し、受験の判定などには一切関係しないことを明示した上で実施しました。受験生向けのアンケートは、匿名であっても前向きな回答に寄りやすい傾向がありますが、今回の設問からは、教える側が見落としがちな悩みや迷いも含めて、受験生の実感が見えてきたと感じています。
山内
森北先生は、広報活動についてどのように感じていますか。先生個人では、展覧会を開催されるなど、社会に向けて発信されているように思っていますが。
森北
私がこの大学に就任して来たのは、16年ほど前だと思います。その時に広報委員会が立ち上がりました。そして一年目で広報委員になり、現在の白河学長が広報委員長でした。この当時は、両学部から先生が集まり、みんなが手探り状態でのスタートです。オープンキャンパスがはじまったのも、この年でした。そう考えると、広報委員会として今は一体感も生まれている印象があります。あとは、どう取り組みを進めていくか、実現していくか、それが問われる組織になっていると思います。

先ほど安野先生から話のあったSNSについてですが、私もSNS運用の仕組みづくりには課題を感じていました。創作活動など、タイムリーに発信したいと思うことが度々あります。

アンケートについて課題と感じていることは、アンケート結果をジャッジする組織的な統一見解がないことです。集計して満足度が高ければいい。果たして、それでいいのか。安野先生は、それを紐解こうとしているように見えました。

そして、もう一つ課題を挙げるなら、ブランドとしてどこまで狙っているのか。大学には限られたリソースしかないわけで、無理を続ければ疲弊がきます。足し算だけでなく、引き算していく考え方も重要ではないかと考えています。
山内
現在、大学の認知度を高めるため、地域の志願者状況を把握するため、全国各地を訪れ、その中で、志願者の動向、本学の強みや弱みの分析など、地道な活動を行っています。こうした成果について、先生の立場から感じられていることはありますか。
森北
彫刻専攻のことしか把握していませんが、以前よりは全国各地から入学しているように感じます。
春田
デザイン専攻もそうです。全国から学生が来ています。広報活動が少しずつ実を結びはじめている実感があります。
芸術と社会の間に存在する距離感。
芸術の世界への入口を透明にしたい。
安野
今回、この意見交換の場に参加するにあたり、改めて中期計画を読み直しました。特に印象に残ったのは、大学院教育の項目にある「優れた芸術活動力を論理的整合性を持って社会に発信できる人材の育成」という記述です。この言葉は、芸術の価値を“わかる人だけがわかるもの”として閉じず、作品や活動の背景を言葉で共有しながら社会と接続していこうとする姿勢のあらわれだと受け取りました。制作の意図やプロセスを丁寧に言語化することは、創作そのものを弱めるのではなく、届き方を広げる試みでもあると思っています。読み直して、新たな気づきがありました。
山内
私は美術も音楽も素人です。この大学で働きはじめて、演奏会や展覧会に足を運ぶようになりました。まだまだ芸術に対して敷居を高く感じる人が多いのが残念です。その点、安野先生の「ゾンビ音楽※1」も、芸術に興味を持っていただくきっかけとして機能していると思っています。本学らしい社会との関わり方について、どのようにお考えでしょうか。
安野
「美術と音楽の複合芸術研究」は、本学らしさの一つです。それを発信することで芸術への関心を高めることが重要だと思います。複合芸術は、学生にとっても有意義な経験です。美術、音楽、専門の違う者同士が同じ制作に関わることで、互いの方法や言葉の違いを体感しながら理解を深めていきます。そうした経験は、学生の視野を広げ、将来の表現の可能性にもつながるはずです。

また、多くの人が芸術に関わる時、「私は素人だから」と距離を置きがちです。その距離を無理に縮めるというより、作品や活動の背景、制作のプロセスを“見える形”で共有し、芸術の世界への入口を「透明」にしたいというのが私のイメージです。透明にすることで社会との接点が増える一方で、芸術大学として守るべき創造性や深度もあります。その両立をどう考えるかが、これからの課題だと感じています。
森北
安野先生の「透明化する」という感覚が、とても良いと思いました。私も距離を無理に縮める必要はないと思います。見やすくすることが求められているのではないでしょうか。

また、安野先生から複合芸術の話がありました。私も以前、オペラ公演の舞台美術の一員として参加した経験があります。その時、美術と音楽の文化の違いを感じられたことが面白かったです。実際に飛び込んでみることが大切だと思いました。
一つ一つの取り組みの集積が、
ブランド力の礎になる。
山内
では、今後の展望について伺います。まず本学では、社会連携組織として一般社団法人「VAUA(バウア)」を設立。2027年4月のスタートに向け、準備を進めています。ここが本学の社会連携を担う組織として、演奏派遣や美術連携などのニーズに応えることになるわけです。それをどうブランド力に結びつけていくのか。春田先生は、どのようにお考えでしょうか。
春田
何をするにしても、一つひとつの取り組みの積み重ねが、大学のブランドを形づくっていくのだと思います。そうした中で、VAUAが持つ「社会とつながる」機能は、これからの愛知芸大にとって新たな魅力になると考えています。その価値が伝わるように丁寧に発信していくことが大切だと思います。
山内
春田先生は、愛知芸大としてのブランド力をどのように確立していきたいとお考えですか。
春田
本学も、数ある芸術大学の一つにすぎません。これから選ばれる大学として発展していくためには、60年かけて先人たちが築いてきた「愛知芸大らしさ」を、時代に合わせて進化させていく必要があります。
そのことを意識しながら、私が広報委員長の最終年に手がけた二つのビジュアルについてご紹介します。

どちらも、まず言葉をつくることからはじめました。一つ目は、冒頭でもお話しした「森の中の芸術大学」というブランド表現を、さらに進化させる試みです。ここでは、「どんな森なのか」という点を、改めて定義したいと考えました。そこでコピーライターとともに生み出したのが、「夢を鍛える森」という言葉です。このコピーは、大学のメインビジュアルとして使用しています。

そして、もう一つの言葉が、受験生や财神棋牌に向けたメッセージでもある「Open Heart, Open Arts」です。このキャンパスで、学生一人ひとりが自分の創造性を解き放ってほしい。そこからアートのジャンルを越え、国境を越え、未来への可能性を開いていってほしい。そんなさまざまな思いを込めた言葉です。

このコピーが使われている大学案内にあるビジュアルは、苦しみながらも自分の内面と向き合い、その先の自分を見つめているような眼差しを意識しました。決して、楽しいだけのキャンパスライフを表現したかったわけではありません。むしろ、そうした姿勢に共感してくれる学生に、この大学を選んでほしいと、今も思っています。

このように、たとえ自分たちがつくり上げたものであっても、一度立ち止まり、壊しながらつくっていく。その繰り返しによって、ブランドを進化させていきたいと考えています。
森北
「鍛える」は、いい言葉だと感じました。私の尊敬する先生は、「ここは草野球場だ」と表現されました。ここから大リーグへ行く人、プロ野球へ行く人、社会人野球へ行く人、あるいはずっと草野球を楽しむ人、みんな同じ野球だけれど、野球との向き合い方が違う。でも、みんな日々練習に励んでいる。その言葉を思い出しました。
春田
この言葉がフックになって、興味を持ってもらいたいと考え、あえて「鍛える」を選びました。とても気に入っています。
山内
では、最後に今後の課題についてのご意見を伺います。
春田
発信力の強化です。本学は、音楽学部と美術学部を合わせて13の専攻があり、それぞれに強い個性を持っています。そのため、時に意見を一つの方向へ集約することが難しい場面もありますが、反面、そうした多様性こそが、それぞれのユニークさを際立たせているとも言えます。だからこそ、教員や職員一人ひとりが広報マインドを持ち、互いの立場や考え方を超えて、愛知芸大の魅力を発信していくことが必要なのではないでしょうか。
山内
中期計画では、学長直下の広報組織の設置が指標の一つに挙げられています。この組織が、そのような役割を果たしていくことを期待しましょう。本日は、さまざまなご提言をいただき、ありがとうございました。
【※1】 「ゾンビ音楽」
“ゾンビ”と呼ばれる自動演奏ロボットが笛などを演奏する音楽プロジェクト。