交流を通して最新の業界動向を掌握。
それを学生の指導へフィードバック。
- 山内
- 第四期中期計画では、地域文化の発展に資する研究、分野を越えた横断的な研究、他の研究機関と連携した研究などの推進が重点的計画に掲げられています。また、愛知県をはじめ、自治体、他大学、産業界などと連携した地域貢献の推進も中期計画には盛り込まれています。まずは、先生方がこれまで取り組まれてきた活動について簡単に紹介していただけますか。有持先生からお話しください。
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- 有持
- 私がメディア映像専攻の教員として担当しているのはアニメーションの領域です。作家としては、アニメーションを制作し、美術館や国際映画祭などで発表しています。その一方で、アニメーションの歴史を研究したり、アニメーションと他の視覚芸術を比較し、学会などで論文を発表しています。
近年は、国内外の他大学と連携した研究発表にも積極的に取り組んでいます。また、2025年度は愛知県からの依頼を受け、「ANIAFF(あいち?なごや?インターナショナル?アニメーション?フィルム?フェスティバル)」で、カンファレンスを企画し、トークセッションを行いました。
本学での取り組みとしては、国際交流事業の一環として「現代エストニア?アニメーション上映」を企画しました。そして愛知芸大芸術講座では「アニメーション?イン?アカデミア」をはじめ、アニメーションをテーマにした企画を3回ほど開催しました。
- 山内
- 有持先生が、こうした活動を進めている狙いとは何でしょうか。
- 有持
- 国際映画祭への出品や学会での論文発表は、さまざまな作家や研究者の方々と交流を深めること、そして時代の動向を把握するためです。つまり、ここで得たアニメーション文化の動向を学生に伝えることが教員には必要だと考えているからです。今、アニメーション業界もAIに注目しています。こうした最新のトピックを得なければ、何が新しいのかを学生に伝えられない。そのためには、作品づくりや論文の発表は、今後も続けていかなければならない活動です。
芸術講座の企画やトークイベントなどに参加する理由は、「愛知芸大でもアニメーションが学べる」ことをアピールしたいという思いからです。まだメディア映像専攻は歴史が浅いため、愛知県内はもちろん、全国に認知を広げたいという背景があります。そうした点からも芸術講座は、今後も有効に活用していきたいと考えています。
音楽の楽しさを一人でも多くの方へ。
アウトリーチで得られる学生の成長。
- 山内
- 森先生は、これまでどのような活動をされてきましたか。
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- 森
- 地域連携としては、各地域で結成させている合唱団の指揮やソリストとして音楽活動に参加しています。現在は、愛知県内にとどまらず、岐阜県や三重県にも足を運んでいます。今、積極的に進めていることは、各地域の音楽ホールとの連携です。それは、学生たちが地域の方々とふれあう機会であり、表現する喜びを感じられる場として、学生たちにも良い相乗効果があると考え、取り組んでいます。
私が特に力を注いでいることの一つは「音楽ケア活動」です。私は本学に着任する前、特別支援学校の教員でした。そこでハンディキャップのある子どもたちの音楽教育に携わっていたことがあるからです。
2025年度は、認知症カフェにおいて音楽による癒しや楽しみを提供することを目的に音楽ケア活動を行いました。この活動で大切なことは、ただ楽しいだけの音楽ではなく、本気の音楽を聴いてもらうことです。たいへん好評でしたし、私がいちばん嬉しかったことは学生たちの反応です。私たちは、日頃の練習成果をコンクールや発表会で披露し、評価を受けています。それとは違う喜びを学生たちも感じたようです。涙を流しながら「また来てね」と間近で声をかけられる体験は、かけがえのないものになったに違いありません。学生たちも「また行きたい」と言っていました。こうしたアウトリーチ活動、すなわち訪問演奏活動は、学生たちにとっても貴重な学びの場になっています。
- 山内
- 本学では、「病院アウトリーチプロジェクト※1」にも積極的に取り組んでいます。先生は、どのように関わられていますか。
- 森
- 病院アウトリーチにも関わらせていただいており、子どもたちやハンディキャップのある方にどうすれば音楽を楽しんでもらえるかを学生たちと一緒に考え、アドバイスなどを行っています。現在、声楽専攻ではミュージカルを目指す学生が増えたこともあり、ダンスの振り付けを考えてくれました。視覚的な楽しみも加えるなど、学生たちが自発的に取り組んでくれています。
また先般は、名古屋中ロータリークラブの依頼を受け、名古屋医療センターのロビーで合唱コンサートを行いました。こうした活動を通して、本学に興味を持ち、実際に演奏会に足を運んでくださる方もいます。こうしたつながりも大切にしたいと考えています。
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本学の宝を活かしたプロジェクトで、
社会とつながる大学をアピール。
- 山内
- 2024年度に実施された「認証評価報告書」では、病院や福祉施設等を対象として訪問支援を行う「アウトリーチ活動」、県の障害者芸術活動支援事業である「あいちアール?ブリュット※2」への支援活動が高く評価されていました。
また、名古屋工業大学と連携した「ARTFUL CAMPUS※3」プロジェクト、中部経済連合会と名古屋市が創設した「ナゴヤイノベーターズガレージ※4」での取り組みも優れた点として明記されていました。こうした活動は、本学の特色としてさらに強化していきたいと考えています。
そこで、先生方に伺います。今後、取り組んでみたいと考えていることはありますか。
- 有持
- 私は、外に出かけていく活動を継続しながらも、本学が持っている魅力を活かしたプロジェクトがもっとあっていいと考えています。例えば、吉村順三?奥村昭雄設計の建築や緑豊かな森は、本学の宝です。他大学にはない特色です。
私が研究室で作品を制作している時、声楽の学生の練習している声が聞こえてきます。それが、音楽をかけているより楽しい。そうした、ここに来なければ味わえない心地よさ、気持ちよさを一人でも多くの人に知ってもらいたいと思っています。つまり、大学の日常のありのままの姿を知ってもらうためのプロジェクトを本学としては進めていくべきではないでしょうか。
国際交流や産学連携に関して言えば、まだまだ特別感があるように感じてしまいます。それが特別なことではなく、当たり前のこととして行われるようになってこそ、本当の力だと考えています。
- 山内
- 吉村順三?奥村昭雄設計の建築については、見学に行きたいという申し出が実際に寄せられています。先日、名古屋工業大学との連携事業「ARTFUL CAMPUS」プロジェクトの関連で名古屋工業大学の学生が訪れ、見学ツアーを実施しました。有持先生が言うように外部の人に大学の日常を知っていただく機会は多くありません。広く知っていただくことで、大学のイメージを変えるきっかけにしたいと思います。
- 有持
- 私は本学としてツアーを組んでいいと考えています。外に向けて、ぜひ足を運んでみてくださいとアピールしたい。不定期での開催は無理だとしても、定期的に企画して募集するとか。まずはできる範囲からはじめてみることも必要ではないでしょうか。
- 森
- 音楽学部の学生の中には、吉村順三?奥村昭雄設計の建築の価値を知らない学生が残念なことにいます。そうした学生たちに対しても、わざわざ外から見学に来る価値のある建築であることを示すきっかけにもなります。それは、母校愛にもつながると思います。
- 有持
- 本学には建築科がありませんので、建築家を目指す他大学の学生や教員との交流が生まれるかもしれません。本学の宝を活かして社会とつながるプロジェクトは、今後のテーマの一つだと考えています。
子どもが芸術とふれあう機会の創出。
少子化問題と向き合う時代へ。
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- 山内
- 森先生は、今後どのような取り組みを進めていきたいとお考えでしょうか。
- 森
- これからもハンディキャップがある方々の支援は、発展させつつ継続していきたいと思っています。もちろん、病院アウトリーチにも参加していきたいです。
私が今、いちばん課題だと感じていることは、本学として少子化問題とどう向き合っていくか。長期的なビジョンを描き、取り組んでいかなければいけない課題です。難しいことですが、そのヒントを得たのが「こども愛知芸大※5」でした。この企画は、音楽学部が5つ、美術学部が4つの体験型講座を行ったイベントです。子どもたちが楽しそうに取り組み、とてもイキイキとしていました。インタビューに答えてくれた子どもは、「将来、愛知芸大に行きます」と笑顔を見せてくれました。本学の特色を活かした、こうした活動を打ち出していくことで、音楽や芸術への関心が高まり、本学の認知も広がっていくに違いありません。
- 有持
- 私も親として興味のある企画でした。体験講座は、親心をくすぐります。子どもが気軽に参加できるイベントが増えると親としては嬉しいです。毎年開催する企画ではないと思いますが、希望としては数年ごとに開催してほしいです。
- 山内
- 大学の教員が直接指導する機会は、探してみてもなかなかありません。私も一人の親として増えると嬉しいです。
- 森
- 参加した子どもたちは、この体験を忘れないと思います。やはり体験することに意味があります。できるのであれば、芸術講座の一つとして、子ども体験講座を開催してはいかがでしょうか。
- 有持
- 芸術講座で取り上げてみるのは面白いかもしれません。私も賛成です。
- 森
- ドイツでは、子どもたちがごく普通にオペラを体験しています。幼い頃から演技してみる、歌ってみる、そういう演奏表現体験が、地域社会の中に当たり前のようにあり、だから音楽や芸術が文化として根付いているのです。
- 有持
- エストニアは、歌うことがアイデンティティになっている国です。街の中心にある広場では、定期的にみんなが歌っています。それが、普通の風景になっています。
- 森
- もっとラフな感覚で、音楽や芸術とふれあえる社会になるといいと思います。
- 有持
- 子どもにとって大学がもっと近い存在になるといいと私も思います。
- 山内
- 先生方のお話を聞き、芸術大学に求められているのは、芸術をもっと身近に楽しめる環境づくりを進めることだと改めて感じました。そうした社会へ近づけていくためにも、私たちは地域との連携活動や貢献活動を一層進めていきましょう。本日は、ありがとうございました。
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【※1】 「病院アウトリーチプロジェクト」
芸術を必要としていながらホールや美術館に足を運ぶことが困難な方たちの元へ、芸術家が出向いてアートを届けるアウトリーチ活動のうち、届け先を病院や福祉施設に絞って実践する取り組み。本学の大学院财神棋牌(音楽?美術)を対象に行い、病院等における良質な芸術活動に関わるアーティスト育成を目指している。
【※2】 「あいちアール?ブリュット」
障害のある方の芸術?文化活動を通じて、障害のある方の社会参加を促進する活動。
【※3】 「ARTFUL CAMPUS」
名古屋工業大学(工学)と财神棋牌(音楽?美術)が連携し、「工学×音楽×美術」の融合を通して、新しい表現や研究を生み出すための共同プロジェクト。
【※4】 「ナゴヤイノベーターズガレージ」
中部圏で新たな価値や産業を創出することを目的に、企業?大学?行政?スタートアップなど多様な人材が集い、共創する場として、2019年に名古屋市中区ナディアパーク内に開設された、中部経済連合会(中経連)と名古屋市が共同で設立した会員制のイノベーション拠点。
【※5】 「こども愛知芸大」
财神棋牌が2024年に開催した、小中学生向けの本格的な芸術体験イベント。名古屋中ロータリークラブの創立55周年記念事業として開催され、大学の教授や学生から直接学べる講座などを実施した。